ハナチルサト

橘の香をなつかしみほととぎす花散る里をたづねてぞとふ

映画「窮鼠はチーズの夢を見る」の女性たちに寄せて

行定勲監督「窮鼠はチーズの夢を見る」を鑑賞してきました。

https://www.phantom-film.com/kyuso/

今までスクリーンで観た行定勲監督の作品を振り返ると「Jam films」「世界の中心で、愛を叫ぶ」「春の雪」の3作品、それとは別に浜崎あゆみさんの楽曲「Voyage」から派生した「月に沈む」という短編映画のDVDを持っていました。

少し前の作品ばかりなので「窮鼠はチーズの夢を見る」が久しぶりに触れる行定作品となりました。

 

さて、これより映画の感想について記していくのでネタバレ注意です。

 

前提として、私は原作未読、関ジャニ∞のファンなので大倉さんが主演を務めるということでこの作品に注目していました。

ですが、この作品に出てくる女性たちの描写が面白くて。「こんな女の人いるよね…」ってげっそりするくらいリアルなんですよね。

大倉さん演じる大伴恭一は、どの女性に対しても良くも悪くも態度が一貫しているんですが、成田さん演じる今ヶ瀬渉の女性たちへの態度や評価が興味深い。

 

まず咲妃みゆさん演じる恭一の元妻知佳子。今ヶ瀬は恭一のタイプだと指摘します。女らしくて強か。転んでもただでは起きない。そんな知佳子が涙ながらに恭一に別れを請う姿は切なかったですね。楽しそうなふり、幸せそうなふり、突然弱々しく泣き出すんだけど、陰でちゃっかり彼氏作っているし、恭一の「間」が気持ち悪いとぶった切る。いいね!どんどん言ってやって!でも不倫良くないよ。もうこれからはおやめなさいね。お幸せにね。

 

次に小原徳子さん演じる、恭一の不倫相手井出瑠璃子。いろいろ凄かった…。既婚者の恭一に迫るわ、離婚したと聞きつけて「私のせい?」なんて上目遣いで聞いた後に恭一を自宅に呼び出す。誰かのものだと俄然頑張れちゃう人なのかな。全く共感できない「嫌な女」なんですが「そりゃこんな目で見られたらな…」などと思えてしまう。いろいろ凄かったです(2回目)今ヶ瀬は瑠璃子に関しては特に何も言ってなかったような…また流されちゃったね?って感じかな。

 

さて今作で私が1番好きな登場人物。さとうほなみさん演じる夏生です。夏生最っ高!目がバッキバキ。恭一を手に入れたくてたまらない。今ヶ瀬が唯一呼び出して対峙した相手。夏生と今ヶ瀬って性格似てるなと思いました。似たもの同士の2人が持つ相手への攻撃のカードは「女であること」と「男であること」しかない。今ヶ瀬に「ドブ」と言い切ったあの迫力。彼女の一言が後々、今ヶ瀬の心を澱ませていくのが手にとるように分かって、恋の女神は夏生に微笑まなかったけれど、今ヶ瀬を一番動揺させたのは彼女なんだろうな…と。あんな風にマウントかけたり小賢しいトリップしかけたりする女の人って確かにいる。2人が対峙するシーンは本作の見どころの1つだと思います。あのシーンは何回も繰り返して観てみたいですね。

 

そして吉田志織さん演じる岡村たまき。あざとかった…あざとすぎて「大丈夫!また誰かすぐ見つかるって!ドンマイ!」と心でエールを送ってしまいました。あざといなと思いつつ、実際しゃべったらいい子だし楽しいひと時を過ごせそうなたまきちゃん。一見弱々しく、守ってあげたくなる砂糖菓子のような女の子だけれど…ね。「前の失敗」発言や灰皿をサッと見つけたり、恭一のトレーナーを着て見せつけたり。強かすぎて怖い。全ての言動が怖かった。今ヶ瀬はいち早く警戒していましたね。彼女のあざとさを見抜いていました。さすがです。

 

番外。

たまきさんのお母さんめちゃくちゃ怖くなかったですか?棚のネジもビンも自分でなんとかできるでしょうに絶対にしないし。たまきにもさせない。かわいそうな「内縁の妻」を演じ切る強かさ。怖い。実際にいそう。こわい。

 

実際にいそうな女性たちに、実際言いそうな台詞を言わせることで、よりリアリティーが出て引き込まれました。

 

濡れ場が話題ですが同性同士については未知なのでなんとも言えませんが、肌感覚と嗅覚以外は描かれているという印象です。俳優の皆さんの役者魂を見せつけられました。

序盤の嫌悪感を持ちながらも流されていく恭一、徹底的に追い詰めていく今ヶ瀬との絡みがグロテスク。この場面を美化せずに描ききった作り手もすごいし、大倉さんも成田さんもすごい。異性だろうが同性だろうが倫理的に許せないことですから、今ヶ瀬のしたことって。たとえ取引であろうともね。けれども始まりが歪んだものだったことで後々今ヶ瀬本人が追い詰められていく。恭一も流れに身を任せるだけで言葉にしないから今ヶ瀬を救えない。まわりまわって本人たちを苦しめていくのが皮肉な伏線回収でした。

 

あと印象に残ったシーンは恭一が去っていった後、恭一の飲み残しのお酒を一気に煽る今ヶ瀬と、同じく恭一が去っていった後、恭一飲み残しのコーヒーをじっと見つめたままの、たまき。この両者の対比が恭一に対する想いを的確に表現しているように感じました。恭一への執着心の表れといいますか。

たまきが選んだカーテンを2人で嘲笑う恭一と今ヶ瀬の醜悪さ。主人公2人を決して美化しない。ただただ淡々と描かれていています。

 

私にはあまり共感出来ない登場人物ばかりだけれど、実際に、すぐ隣に居そう。そして全員なんだか愛おしくなる。そんな気持ちにさせる映画「窮鼠はチーズの夢を見る」。

誰と誰が本当に愛し合っていたのか?独占欲?駆け引きが楽しいだけ?利用したいだけ?快楽だけの繋がり?そんなことを考えているうちに130分はあっという間に過ぎていきます。

パンフレットはまだ中身を読めていないのですが装丁が美しくて感動しました。

かつて恋をした人は身に覚えのある感情を思い出すだろうし、今恋に悩んでいる人は客観的に自分を見ているようで苦しくなるんじゃないかな…。

余談ですが、ちなみに私はあえていうなら今ヶ瀬タイプです。(余談がすぎる)

 

公開1週間も経っていない映画の感想を綴るのは正直迷いましたが、心を動かされた瞬間を記録しておきたいと思ったこと、大倉さんに「すごい映画でしたね」と大倉さんから最も遠い世界から愛を叫びたくて。大倉さんだけでなく出演された全ての俳優の皆さん、監督を筆頭に制作に関わられた皆さんに敬意を評して。

最後になりましたが、公開おめでとうございます。この作品が多くの方に愛されることを心より祈っております。